まるよ菓子店

コンフィチュールの美しさの影には美しい布を織るような手間ひまが隠されている。

素材を切る加減、砂糖に漬ける加減、何段階かに分けて火にかける時間とタイミング。

作り手が素材と対話して、一瞬一瞬の向き合いで決まる繊細な作業の賜物。

瓶詰めして包装するまでが職人の技とセンスの見せ所だと思う。


まるよ菓子店の岡村千香さんは、フランス菓子を専門とするパティシエで、

お互い勤め人だった頃の同僚でもある。

販売の担当をしていた私は、用事があって彼女の作業場に度々足を向けた。

口は用件を話しながら、私の目は密かに彼女の手元に釘付けだった。

フルーツのカットの手順や、たくさん作る時の作業の流れなど、

本を読むだけでは腑に落ちないリアルな技術を目の当たりにして

たくさんのことを憶えたものだ。

そんなある秋の日、

ワイナリーから依頼された甲州葡萄のコンフィチュールを作る作業に立ち会わせてもらったことがあった。

冒頭のようなコンフィチュールの世界を知ったのはこの時だった。

千香さんの話し口調はおっとりしていて、

誰もがまねしたくなる特徴的な愛らしい話し方をする。

(私の身近な人モノマネの十八番のひとつ)

作業する動きも優しいけれど、決しておっとりはしていなく、

てきぱきとスムーズに手早くたくさんのお菓子をきれいに仕上げていくのだ。



口調のイメージ通りなのは、人並みはずれた謙虚さとほめ上手。

私のような素人の仕事を、何度もすごい~と褒めてくれる。

その性格が作るものにもよく現れていて、経験という壁を作らずにいい素材やいいレシピは取り入れ、

伝統的なフランス菓子から植物性のお菓子まで幅広く、どれも彼女らしいタッチで作っている。

自分を大きく主張するようなものでは無く、口にする人が肩の力を抜いて自分らしいままに

特別な時間を楽しめるのがまるよ菓子店の淡く甘美な世界。

l'isleが選んだ果実でまるよ菓子店に作ってもらうコンフィチュールは、

素材を真ん中に、

組み合わせの相談を通しながら今までの付き合いに加わった

新しい形での対話を紡いで行くつなぎ役。

素材の作り手と、素材そのものと、素材が内包している土地の気配と、

そして選ぶ人、味わう人が一瓶をぐるりと囲んで関わっているのが楽しい。

そういえば千香さんはパティシエになる前、

山梨の地場産業である宝飾の仕事をしていたそうだ。

小振りなガラス瓶に詰められたコンフィチュールは

一つだけささやかに宝石をつけた

華奢で、指の仕草と自然に調和する

さりげない指輪の美しさと似ているかもしれない。


ルバーブのコンフィチュールの詩

ルバーブを12kg。
ざくざく刻みながら 素材の話をおしゃべりしながら
午後の時間は進んで行く。

真っ赤なルバーブを12kg。
ざくざく刻みながら 農家さんの話をおしゃべりしながら
午後の時間は流れて行く。

富士見町の真っ赤なルバーブを12kg。
ざくざく刻みながら 愛だ恋だ友だ仕事だ夢だとおしゃべりしながら
そろそろ散歩の時間です。

ノアが2階で待ちぼうけ。

砂糖をまぶして気がつけば
おしゃべりだけが止まらず刻まれ続け
夕焼け前というのに
砂糖がピンクに染まってる。

真っ赤な真っ赤なルバーブを12kg。
おしゃべりも作業も今日はおしまい。
夜の時間が進めてくれる。
ノアちゃんお待たせ。ありがとね。

ルバーブの香り、砂糖の香り。
溶け合う事で湧きあがり
静まり返った工房にひっそりと
柔らかく満ちるだろう。

明日はいよいよ銅鍋の中。
おしゃべりはない。
ノアはまた待ちぼうけ。

真っ赤な真っ赤なルビーのような

コンフィチュールの瓶詰めを101本分。